B型肝炎 #2
B型肝炎の治療
B型肝炎の治療という項目名にはしてありますが,ここでは主にB型慢性肝炎の治療法として一般に行われている事について触れたいと思います.
成人の水平感染等によるB型急性肝炎の場合,前項でも触れましたが比較的予後は良く,治癒の方向へ向かうとされます(要するに自分の身体の免疫力でウィルスを排除できると考えられている)ので,他の急性肝炎同様の症状が強く出たり,黄疸症状が酷い時,肝機能低下が顕著な時は原則入院で,ビタミン,ブドウ糖輸液等の点滴で栄養を補って安静にします.(この点は,風邪に特効薬が無いのと同様に捉えてええのではないかと思います)
さて,慢性化してしまったB型肝炎ですが,これにはインターフェロンなど抗ウィルス作用のある薬剤による治療,プレドニゾロン(副腎皮質ステロイド剤)投与後のリバウンドを利用した治療,プロパゲルマニウム剤など免疫賦活作用のある薬剤による治療,また,強力ネオミノファーゲンC(SNMC)など肝炎症状を抑えるための薬剤による治療等,いろいろな治療が行われています.ここでは各治療のB型肝炎に関する事に触れます. (ページがあっちゃこっちゃになって申し訳ないですが,他の肝炎でも使用されている薬に関しては別ページにしました)
インターフェロン
インターフェロン(以下 "IFN"と略)はRNA型のウィルスに特に効果が期待される薬でC型肝炎にも使用されていますが,DNA型ウィルスであるHBVにもその増殖を抑える効果が期待できる(増殖時,DNAからRNAに転写されたところを叩ける)ため使用されています.
HCV対象にも使用されているため別ページにしましたので,どういうお薬かは【肝炎の薬 - インターフェロン】を御参照ください.
ステロイド離脱療法
B型慢性肝炎の治療法として,インターフェロンと並んでよくおこなわれます. プレドニンなどの副腎皮質ホルモン剤を投与(服用)して,意図的に身体の免疫力を抑制しておいてから使用を中止し,身体の免疫力を一気に活性化させる治療法です.副腎皮質ホルモン剤を飲んでいる間はウィルスは増殖することになり,そこで薬の使用を中止し,活性した免疫に増殖しているウィルスの認知度を高めさせ,攻撃させるということを行います.
高い治癒率を示す反面副作用も強く,一時的にせよ肝炎を悪化[※1]させることにもなる治療法ですので,治療途中で重症になる例もあります. 難しい治療法ですので専門医のいる施設で行うことをおすすめします.
ある程度GOT,GPTが上昇している活動性のB型慢性肝炎せ筬効で,治療の対象となります.
また,ステロイド離脱療法とインターフェロンの併用療法というのも行われていて,それはステロイド離脱療法後にインターフェロン治療を行い,いわばとどめを刺すような治療法です.
それぞれ単独で治療を行うよりも高い効果が得られるようです.
反面,ステロイドとインターフェロン2つの副作用に耐えねばなりませんし,より慎重さを要求される治療法ですので,これも専門医にご相談されるのがよいでしょう.
- ※1: くどいようですが…
- ウィルス性肝炎に於ての肝炎症状というのは,ウィルスを排除しようとして感染細胞を免疫が破壊することによって起りますので(つまりは細胞障害性T細胞による肝細胞壊死),肝炎症状が激しいことは,それだけ免疫が盛んに攻撃を仕掛けていることの証拠でもあるわけです.
プロパゲルマニウム
プロパゲルマニウムではHBe抗原陽性のB型慢性肝炎せ簪いられ,ウィルスマーカーの改善の効果があり,通常,成人に1日30mgを3回に分けて服用します. (セロシオン1カプセル中 プロパゲルマニウムとして10mg含有)
主な薬効は,
IL-1,IL-2,IFN-γ産生増強等により細胞障害性T細胞,NK細胞を賦活化し,ウイルス感染細胞を破壊する.
また,抗体産生能増強によりウイルス関連抗原の排除を促す.
更に,IFN-α/β産生増強により,ウイルスの増殖を抑制する.
(山之内製薬株式会社/株式会社三和化学研究所)
となっています.
慢性肝炎の急性増悪により死亡例が報告※されていますので,黄疸のある方,肝硬変または肝硬変の疑いのある方,この薬に対し過敏症のある方への投与は禁忌となっています.
また,インターフェロン投与終了直後の方,黄疸の既往歴のある方,重篤な腎障害のある方,薬剤過敏症の既往歴のある方,高齢者には慎重投与,妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので,妊婦,妊娠の疑いのある方へは,治療上の有益性が危険性を上回る場合のみ投与,乳汁中への移行が報告されているので,授乳婦は投与中に授乳を避けること,また,使用経験が無いので小児への安全性は確立していないとされています.
ラミブジン
以前より,HIV(エイズ)の医療薬として使用(保険適用)されていたラミブジンですが,昨年(2000年)ようやくHBV対象で保険適用薬として承認されました.(ウワサには聞いていて心待ちにされていた方も多いのではないかと思います.私もその一人ですが) HIV,HBVはDNA複製の過程が良く似ているのでHBV治療へ応用されたそうですが,とりあえずここでは「ラミブジンはHBV-DNAの複製を邪魔するお薬」として覚えておけば良いと思います.
ちょっと長くなってしまいましたので別ページにしてあります.詳細は【肝炎の薬 - ラミブジン】を御参照ください.それと,私も昨年(2000年)12月29日より投与を開始してまして,それに関してちょっとだけ 体験談?(というものでもないですが)を書きましたので,宜しければそちらも御参照ください.
強力ネオミノファーゲンC(SNMC)
B型慢性肝炎では主に肝臓の炎症を抑える目的,肝機能改善目的で使用されます.詳しくは【肝炎の薬 - 強力ネオミノファーゲンC】を御覧ください.
ウルソデオキシコール酸
B型慢性肝炎では主に肝機能改善目的で使用されます.詳しくは【肝炎の薬 - ウルソデオキシコール酸】を御覧ください.
B型慢性肝炎患者は何を目指すのか?
なんてたいそうな御題をつけてしまいましたが,さて,治療を行ってB型慢性肝炎を患う者は一体どんな(身体の)状態を目指すのでしょう? 何を目指せば良いのでしょう?
以前は,セロコンバージョン(HBe-SC)の状態をまず目指す!というのが治療の第一目標とされていました.しかし最近,セロコンバージョン後の再燃(HBe抗原陽性化)という話を良く耳にする方も多いかと思います.それでは,セロコンバージョンは目指す目標ではないのか? と言えばそうではなく,まず,第一歩目として目指す目標であることは今も変らずで,ある先生のお話では「初めの一歩を踏み出せるかどうかが何事にも大切ですからね」とのことでした.またその先生はこうも仰っておられます.「でも、それですべてが終わりではなくて,永年の経過観察を経て,HBs抗体陽性になることが最終的な目標であると考えられるようになってきています.」
- セロコンバージョン
-
セロコンバージョンとは,検査数値の上では,HBe抗原が陰性(-)を示し,HBe抗体が安全と思われる値(80以上が望ましいといわれています)以上で陽性(+)を示す状態をいいます.
その裏側ではなにが起っているのかというと,HBV-DNAのPre-C領域(C領域のすぐ上流.蛋白合成時,上流→下流という風に読んでいく)の塩基配列が変異し,Pre-C領域変異株に変異しHBe抗原を産生しなくなり,結果,血中のHBe抗原は消失,余ったHBe抗体のみが残る.これがセロコンバージョンの正体.ということだそうです.
遺伝子の塩基配列は,3文字で1つの意味を持つ暗号(コドンといいます)になっていて,その3文字ずつを読み取って翻訳していくのですが,その暗号には「ここからアミノ酸を作り始める」[※2],「○×というアミノ酸を作る」,「ここで終わる」という暗号があり[※3],上のPre-C領域変異株では1895〜1897番目までの3文字がTGGという文字の並び[※4]から,TAGという「ここで終りだよ」という暗号[※5] に変ってしまっている,つまり1896番目のたった1つの塩基が"G"(グアニン[guanine])から"A"(アデニン [adenine])に変ってしまっていることによって,その下流のアミノ酸が作られなくなる(抗原蛋白の合成がそこでストップする)ということが起っています.前のページで触れましたように,Pre-C領域はHBe抗原を支配していますので,そこで変異が起ることによってHBe抗原が産生されなくなるということです.
(前のページでなんでいきなりORFやら遺伝子やらって小難しい話からおっぱじめたかというと,セロコンバージョンの話とかPre-C領域変異株とかの話になるとどうしても関連してくる話題なんで,触れるしかしょうがないからです.触れずに素通りできるならそうしたいです.マジで難しいしややこしいし….っつうか書いてる本人全く解ってないに等しいし…(死))
- ※2
- 実際にはそれはATGという配列と決まっていて,メチオニンというアミノ酸になります.
- ※3
- 詳しく御知りになりたい方は"コドンの暗号表"というキーワードでGoogleなどの検索エンジンで検索してみてください.コドンの暗号表は通例ではmRNAについて書かれているので "T(チミン [thymine])" にあたる文字は "U(ウラシル[uracil])"と書かれています.
- ※4
- これは「トリプトファン」というアミノ酸を作る
- ※5
- ストップコドンとか終止コドンといいます.他に2つあって,TAA,TAG, TGAの3つがストップコドンです.
先日,このサイトのBBSでHBs抗原・HBs抗体供陽性を示すという方からの御投稿があり,そういう状態が起りうるという事実を知らなかった私は「え? HBs抗体が獲得できているということはHBs抗原が陰性である筈ではないのだろうか?」と頭を悩ませてました.…と,私が何を考えたところでどうにもならないので,ある先生に御伺いしたところ「S領域のあるアミノ酸(126番目や145番目が多い)が変異した変異株の感染が考えられます」とのことでした.
(「また変異株かいな」って思うでしょう? 私も思いました.ほんまHBVってあっちゃこっちゃ良く変異するのね…(苦笑) 素人考えで「HBVって宿主免疫の目を逃れようとして必死になってるなあ」とか思ってしまいますわ.「敵ながらあっぱれぢゃ!」 って誉めてどうする > 俺)
それによって野生株に対するHBs抗体を獲得していても,抗原抗体反応を起こさない (ある抗体はある抗原に特異性を持つ) ため S領域変異株は防御の目をかいくぐって持続感染が成立する.そのS領域変異株が産生するHBs抗原はオリジナルとは若干異なるので野生株に対するHBs抗体では役に立たない.よってHBs抗原(このHBs抗原は変異HBs抗原)も陽性(+),HBs抗体(このHBs抗体は野生株に特異なモノ)も陽性(+)という状態が起る.ということです.(ややこしいなあ… (;_;) )
ここで,「じゃあ,さっきの "HBs抗体陽性になることが最終的な目標" というのは?」という疑問が湧くと思いますが,そのある先生のお話では「S領域の変異は極めて稀なケースです」とのことでしたので,そういう特殊なケースを除いてHBs抗体獲得は治癒の判断材料として十分な価値をもっていると言えるでしょう.
長くなりましたが,ここまでをまとめてみると,まず第一歩目のセロコンバージョンを目標とする.それを踏み出せたらHBs抗体獲得を治癒としての目標にする.ということになるかと思います.
さて,[ちょっと一服… #2]は御読み戴いたでしょうか?
上でウィルス排除という面で患者が目指す状態に触れました.しかしウィルスの排除は決して一筋縄でいかないのは,今まで何度となく抗ウィルス治療を経験してきた方で,今も尚,第一歩を踏み出せない方は,身を持って知っているのではないかと思います.(私も,その一人ですが…)
[ちょっと一服… #2]でも御話ししましたが,ウィルスの排除だけに心を囚われてしまうのは少々疑問を抱きます.もちろん,ウィルスの排除が出来ればそれに越したことはないですし,原因が取り除かれるのですから,炎症を抑えるという角度からの治療のことも考えなくて済むようになりますが,高齢であったり,また抗ウィルス治療の副作用に耐えられる体力がなかったりすると,その治療も行えません.
慢性肝炎を患い,長い間肝臓に炎症(肝細胞の壊死)を起こしていると,予後の悪いケースとして肝硬変,肝癌への移行もあると前ページでお話ししました.ウィルス排除が出来たと仮定してそれがもたらす結果が「肝硬変,肝癌への道を歩まないこと」であるなら,得ようとしている結果というのは,ウィルスの存在の有無を除いて,抗ウィルス治療も抗炎症治療も同じであると考えられるとすることもできます.(これは少々強引かも知れませんが)
炎症を抑えるという治療はいわば対処療法ですので,その「対処」という言葉から消極的イメージを抱きがちですが,それは決して消極的ではない,悪い方向へ歩みを進めない,また慢性の炎症(細胞への刺激)を減少するのは発癌のリスクを減少する点で,抗ウィルス治療と同じく積極的な行為である.と考えることができるということです.
まとめますと,抗ウィルス治療が行える(それが適している)なら,ウィルスの排除により悪いケースへの道を歩まないようにする,そうでないなら炎症を抑える治療を行い悪いケースへの道を歩まないようにする,というのが,慢性肝炎患者が目指すところと考えられるでしょう.