C型肝炎
C型肝炎ウィルス[HCV]の特徴
HCVは直径50nmの球形で外殻(エンベロープ [envelope])を持つウィルスで,フラビウイルス科ヘパシウイルス属に属し,ゲノムの大きさ約9.5kb(約9500塩基) の線状1本鎖RNAを遺伝子に持ちます. HBV発見後,輸血のHBVスクリーニングを実施していても減少しない輸血後肝炎の原因とされていたNANBウィルス(not A not B …… A型でもB型でもないという意味で,解明されていなかったためとりあえずそう呼ばれていた)を含むと思われるチンパンジーの血漿中から,1988年,Chiron社(カイロン社 - アメリカ)によって発見されました.
C型肝炎ウィルスの遺伝子型 [Genotype]
HCVはの遺伝子型は多様です.遺伝子型は現在, genotype-1a(I) (以下,長いので "genotype-"を省略), 1b(II), 2a(III), 2b(IV), 3a, 3b, 4, 5a, 6a という分類をされていて,それぞれ病原性,感染性,治療への感受性の違い等の検証材料として用いられています. また 1b(II)はセログループ1[serogroup 1],2a(III)と2b(IV)はセログループ2[serogroup 2]という呼び方もされています. 日本ではgenotype-1aの患者さんは殆んど存在せず,1bが約7割,2aが2割,2bが約1割とされています.
C型肝炎の感染経路
HCVは血液を介して感染します.この点ではHBVと同じですが,HCVは血清中に存在するウィルス量が極端に少なく(体液に含まれるウィルスも少ない),性行感染,母子感染の頻度はHBVのそれより低いとされます.(しかし同世帯内での感染,母子感染も皆無ではないので体液からの感染も否定できないといわれています) ただし,母子感染に於てHBVの様にキャリア化することは極めて稀とされていて,HCVキャリアの半数は輸血,乃至,血液製剤による感染,残りが他の経路により感染していると言われていますが,その残りにあたる人もその多くは医療行為(予防接種等)からの血液感染と推測されています.
参考までに…. 予防接種の注射針が使い捨てになったのが 1958年以降,売血が廃止され献血制度が始まったのが1964年,輸血のHBs-Agスクリーニング実施開始が1972年,注射器そのものも使い捨てになったのが1988年以降,ようやくHCV抗体の輸血スクリーニングが開始されたのが1989年(カイロン社の発表の翌年)です.
C型肝炎の発症機序・経過・予後
感染後2週〜3ヶ月の潜伏期間の後,急性肝炎を発症します.症状は風邪に似て,食欲不振,疲労しやすい,全身倦怠感などですが,特にHCVは他のウィルス性肝炎に比べ症状が弱く,初期症状が出ていても気づかないことや,全く自覚症状が出ないことが多いのが特徴です.
C型肝炎は慢性化しやすいウィルス性肝炎で,感染を受けた人の約3割は一過性の感染で済み治癒へと向かうといわれますが,残念ながら残り6割以上の人は慢性化の道を辿ってしまいます.トランスアミナーゼの正常化等の所見により治癒したと思われていたものが,実際にはウィルスが身体に残っていて再び活動を開始することも稀ではありません.慢性化するとトランスアミナーゼの上昇・下降を繰り返したり,一時的に正常値をキープし休止状態となり,また何年か後に再び再燃するというケースも見られます.
慢性化してしまったC型肝炎は自然に治癒することはなく,最悪のケースとして長い年月を経て肝硬変・肝癌へ移行することもありますので,そうならない為に常に定期的に経過を観察し,適切な治療・対処をして,肝硬変・肝癌への階段を早足で登らないようにすることが大切です.(こういう場合の牛歩戦術は誉められるものだと思います)
C型肝炎の治療
現在,C型慢性肝炎の治療に高い効果が望めるとされているのはインターフェロン(以下 IFNと略)です. (※ IFNについては【肝炎の薬 - インターフェロン】の項を参照.ここではHCVに関連する事だけ挙げます) その対象となる患者の条件は,
- HCV-RNAが陽性であること.
- 活動性肝炎であること.
- 自己免疫性肝炎,アルコール性肝炎等その他の慢性肝疾患ではないこと,並びに肝不全を伴わないことを確認する.また.組織像又は肝予備能,血小板数などにより慢性肝炎であることを確認する.
- 小柴胡湯を投与中で無いこと(禁忌)
とされており,IFNの効果は,患者さんの持つHCV-RNAの遺伝子型,及びその量,肝線維化のステージ,HCV-RNA genotype-1bに於けるHCV非構造蛋白NS5A領域と呼ばれる部分の2209〜2248番目のアミノ酸配列変異の有無などの要素に因り差があるとされています.
IFNとRNAのgenotypeとその量の関係として,2a,2bの症例及び1bの低ウィルス量の症例では著効率が高く,1bの高ウィルス量の症例では効果がでにくいということがわかっています.NS5A領域アミノ酸変異との関係では変異の多いもの(mutant type ─ 変異が4箇所以上ある)の方が野生株(wild type ─変異無し)よりも効果が高いといわれています.
- 著効
- 投与終了後6ヶ月以上 ALT(GPT)が正常で,終了6ヶ月後の時点でHCV-RNAが陰性である例.著効率(%)は"著効を示した例÷試験数×100"
- 有効
- 投与終了後6ヶ月以内にALT(GPT)が正常上限値の2倍以下に改善し,その後6ヶ月以上正常上限値の2倍以下を持続した例
- 無効
- 著効,有効に属さない例
IFN-αは通常,成人で,一日600万〜1000万国際単位を6ヶ月間以内の投与が保険適用で,初期2週連日投与以後週3回投与(筋肉注射)を継続というケースが一般的なようです. IFN-βでは300万〜600万国際単位を6〜8週連続投与(静脈注射もしくは点滴)という投与方法が一般的なようです.
また,2000年4月よりC型慢性肝炎に対するIFNの再投与が認められるようになり,初回投与時に於て,もう少し投与を続ければ効果が期待できたのではないかと思われる患者さんに対して大きな意味を持つと考えられています.ただし,再投与の対象となる条件は以下に限定されています.
下記 1,2を共に満たす場合にインターフェロンの再投与による一連の治療について1回限り算定することができる.ただし,再投与の場合の標準的な投与期間については6ヶ月以内とする.
- 初回投与時に於て,a 又は b の効果があったもの
- [a] 有効以上の効果が認められたもの (有効: 投与終了後6ヶ月以内にALT(GPT)が正常上限値の2倍以下に改善し,その後6ヶ月以上正常上限値の2倍以下を持続した例)
- [b] 投与終了時点で HCV RNAが陰性化したもの又はGPTが正常化したもの.
- 下記の a 又は bであること
- [a] HCV遺伝子型: セロタイプが1以外あるいはジェノタイプが1b以外
- [b] HCV RNA量: 1Meq/ml(プローブ法)以下あるいは100Kcopies/ml(アンプリコア法)以下
さて,IFNに適さないと診断されたとて何も打つ手が無いわけではありません.トランスアミナーゼ改善を目的としてウルソデオキシコール酸,強力ネオミノファーゲンC,小柴胡湯などの漢方薬,などなど,治療薬はIFNの他にもありますので,主治医と良く相談して自分に適した牛歩戦術を実行しましょう. (薬については【肝炎の薬】の章を参照)