肝臓病の検査

血液の検査 #2

ウィルス・マーカー(抗原・抗体)

肝炎ウィルスに感染しているかどうか,また,その時の状態(ウィルスの増殖性や感染初期か過去の感染なのか等)を調べます.ウィルス感染での診断材料の標識的意味を持つ為,ウィルス・マーカー[virus maker]といいます.

抗原 [antigen] ・ 抗体 [antibody]

抗原は自己(自分の身体)を構成する物質以外の蛋白をいい,ウィルスや自己以外の異物が身体に侵入すると,身体はそれに結合して無力化する為の蛋白を合成します.それが抗体で,この反応を免疫反応,抗原抗体反応といいます.

また,抗体にはある抗原に特異的に結合する性質をもっています.それぞれの抗原に応じて抗体が抗原に結合する部分のアミノ酸配列を換えていて,そこで特異性が決まります.

臓器移植時に於ての拒絶反応も,花粉症も(産生された抗体IgEが花粉症のアレルギーを引き起こす),ウィルスに対する抗体産生も,自己以外の蛋白が侵入したことによる抗原抗体反応の現れです.

A型肝炎ウィルス[HAV]のウィルス・マーカ

IgM型HA抗体 [IgM HAV-Ab]

陽性(+)を示すと現在感染中,或は感染から2〜6ヶ月の間であることを意味します.

HA抗体 [HAV-Ab]

陽性(+)を示すと過去に感染したことがある(現在は治癒している)事を意味します.IgM型,IgG型両方を測定します.

B型肝炎ウィルス [HBV]のウィルス・マーカ

HBs抗原 [HBs-Ag]

HBs抗原はHBVの外被にある抗原で,HBVの殻(もしくは果実でいうところの皮)にあたる蛋白です.

HBV粒子全体,或は,球形粒子,管状粒子単体としても検出されます.(HBVが肝細胞内に侵入後,余分にHBsを合成し血中に放出するため)

陽性(+)を示すと現在感染していることを意味します.

HBs抗体 [HBs-Ab]

HBs抗体はHBs抗原(HBV外被表面蛋白)に対する抗体で,一般にHBVの中和抗体,防御抗体ともいわれ,これの獲得はHBVへの免疫が成立しているとされることから,陽性(+)を示すと過去に感染し現在は治癒していること(感染既往)を意味するとされています.[※注1]

注1: S領域変異株(別名 エスケープ変異株)

しかし,HBs抗原,HBs抗体両方が陽性を示すケースがあります.

現在,HBVのS領域由来のアミノ酸 (126番目や145番目が多い) が変異した変異株 (S領域はHBs抗原産生に関与している)の存在が知られており,既存のHBワクチン(それはS領域変異株に対してのものではない)を接種すること等により従来のHBV(野生株)に対する防御抗体を獲得していても (つまり,この時,野生株のHBs抗原に対応するHBs抗体は陽性(+)を示す),それとは抗原抗体反応をせずに持続感染 (キャリア化) を成立させてしまうケースで,その変異株はオリジナルとわずかに違うHBs抗原を産生するのでHBs抗原も陽性を示すことになります.(つまり,この陽性を示したHBs抗原は変異株が産生したもの)

IgMHBc抗体 [IgM HBc-Ab]

HBc-AbはHBVのコア蛋白に対する抗体で,IgM-HBc抗体が高力価で陽性を示した場合,HBV初感染(初めて感染した)で初期,或は感染から3〜6ヶ月の段階という目安となります.

キャリアからの急性発症時や慢性B型肝炎の増悪期では低力価,キャリアでは低力価乃至陰性を示します.ただし初感染でも低力価である場合もあり,見分けるためHBc抗体の検査も行われます.

IgM? IgG? なにそれ? [免疫グロブリン]

Ig (免疫グロブリン [Immunoglobulin])というのは抗体蛋白の総称で,4本のポリペプチド鎖で構成される複合蛋白質です.

Igは5種類にクラス分けされていて,IgM型の抗体というのは,感染初期(1次免疫応答期)に作られる抗原に対しての活性や結合力の低い抗体で,B細胞(免疫細胞の一つで抗体を合成する細胞.骨髄[Bone marrow]由来ということからB細胞と呼ばれる) の表面にあって抗原認識の受容体として働きます.

感染(抗原の侵入)より時間の経過とともに1次免疫応答の記憶を活かして抗原に対してより活性や結合力の強い抗体がつくられます(この免疫反応を2次免疫応答といいます).この時つくられる抗体がIgG抗体です.

HBc抗体 [HBc-Ab]
キャリアからの発症で高力価となり,初感染では低力価になります.
HBe抗原 [HBe-Ag]

HBV粒子の核部分にある抗原で,陽性(+)の場合,ウィルスが活発に増殖活動をしていることを意味します.また感染力の強さも表します.

しかし陰性(-)または低値であっても,ウィルス遺伝子のPre-C領域というところが突然変異し,HBe抗原を産生しない変異株へ変異しているケースもあり,その場合はPre-C領域変異株かどうかを見極める必要があります.

HBe抗体 [HBe-Ab]

HBe抗原に対する抗体で,HBe抗原陰性化またはその後出現する抗体です.陽性(+)を示す場合,HBVの増殖減衰を意味し,感染力は弱いと考えられます.

HBV-DNA

HBV遺伝子を測定します.HBVの増殖性や量を調べます.

HBV-DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)

HBV-DNAにより合成される酵素で,HBV-DNA複製に関与しているため,HBVの増殖性の指標となります.

C型肝炎[HCV]のウィルス・マーカー

HCV抗体(第一世代抗体検査 [c100-3抗体])

HCV抗体が陽性か陰性かを調べます.陽性(+)を示すと感染を意味します.

発症初期3ヶ月以内では陰性を示す事が多く,現在では急性肝炎時の診断には向かないとされています.

HCVコア抗体

HCVのコア領域に対する抗体を調べます.インターフェロン治療時の効果を判定するのに有効です.

HCV抗体(第二世代抗体検査)

第一世代抗体,コア抗体を同時に調べる検査法で,第一世代抗体検査よりも広範囲の抗体検出が可能です.

HCV-RNA

直接的にHCVの遺伝子(リボ核酸)の量を調べる検査で,現在PCR(ポリメラーゼ・チェイン・リアクション)という検査方法が一般に用いられています.

抗体検査では,ウィルスが消失後も陽性となる場合があり,また,発症後1〜2ヶ月を経過しないと抗体が発現しないため,その時点でのウィルス感染の有無を調べる上で遺伝子を直接しらべる検査は有効とされます.

また,HCV-RNA量も下記HCV-RNA遺伝子型検査と同じく,インターフェロン治療時に於ける効果を予測する(または治療の対象として適するか否かを判断する)診断材料として大きな意味を持ちます.

HCV-RNA遺伝子型

HCVは単鎖(1本鎖)RNAを遺伝子に持つウィルスで,複製時(増殖時)にコピーミスをしやすい,突然変異を起こしやすいウィルスです.遺伝子の型は現在8種類あるとされ,HCVの遺伝子型によりインターフェロンの効果が異なるため,その診断材料となります.

線維化マーカー

慢性肝炎,肝硬変などに因り肝細胞の破壊が繰り返されると肝細胞同士を結び付けている線維蛋白が増えてきます.その時血清中に増えるコラーゲンなどの量を調べることにより,肝臓の線維化の度合いの診断材料とします.

プロコラーゲン III N末端ペプチド(P-III-P)

P-III-Pはプロコラーゲンから切り放されて出来るペプチドで,慢性肝炎また肝硬変での線維化状態を反映し,重症度に比例して高値を示します.

ヒアルロン酸 [hyaluronic acid]

ヒアルロン酸も慢性肝炎,肝硬変の線維化の目安となりますが,特にアルコール性肝硬変で顕著に高値を示します.

IV型コラーゲン

IV型コラーゲンも慢性肝炎,肝硬変などの線維化の目安となり,高値を示すほど線維化が進んでいることを意味します.

腫瘍マーカー

癌発生に伴い,通常血清中にわずかにしか存在しない蛋白が大量に検出されるようになります.これを腫瘍マーカといい,癌の有無を調べる一つの診断材料とします.

AFP (α-フェトプロテイン)

AFPは胎児または出産直後の赤ちゃんに高値に見られる血清蛋白で,通常,成人には微量にしか検出されませんが,原発性肝癌(他の臓器の癌からの転移ではない肝癌)で高値を示すようになります.

ただし,原発性肝癌でなくても慢性肝炎,肝硬変で健常な成人より高い価を示すことがあるため,これが通常より高い価で検出されたことだけで肝癌発生と診断できるものではありません.

また,逆に原発性肝癌が発生していても検出されないケースもあり,画像診断等他の診断も合わせて行う必要があります.

PIVKA-II

PIVKA-IIは原発性肝癌に特異性があり,プロトロンビンが合成される過程のビタミンKに依存したカルボシキル化反応の欠落により生じる凝固活性の無い異常な蛋白で,これも原発性肝癌発生の有無を調べる指標とされます.

また,α-フェトプロテイン同様,癌が発生していても正常値を示すことがあり,画像診断他の診断も合わせて行う必要があります.

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LastModified: 2004-02-25T23:14:39+0900